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東京地方裁判所 昭和24年(ワ)481号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(事實)

原告會社の從業員である被告は、原告會社の東京工場から新潟縣下の加茂工場に轉任する際、その家族を東京に殘住させるため、原告會社からその所有社宅一戸を使用料毎月金二十二圓九十錢、毎月末日拂の約束で借受けたが、被告はついに右加茂工場に赴任せず、間もなく原告會社から退社した。

原告は、「右社宅は原告會社が從業員のための福利施設として從業員に限りこれを使用させる住宅であつて、本件社宅使用契約は從業員たる身分の喪失を解除條件としたものであるところ、被告の退社により右解除條件が成就したから、被告は右社宅を明渡す義務がある。」と主張して、被告に對し本件社宅の明渡を求める。

(判斷)

原告勝訴。判決は、先ず社宅使用契約は賃貸借に類似する一種特別の契約で、その中に從業員である身分の喪失を解除條件とする默示の合意を含むものとなし、次で右の如き解除條件の特約が借家法第六條の「賃借人に不利な特約」に當るか否かに言及し、借家法の目的、社宅使用契約の性質等から考え社宅使用契約には借家法の適用があり得ず、從つて同契約の一部をなす右解除條件の特約についても同法第六條の適用はあり得ない。と述べている。(本判決は既掲〔四b〕事件――本誌六號四五頁――と爭點並びに結論を同じくするものであるが、後者に比し問題の理論的解明をかなり前進せしめている點において注目を惹くものである。)

すなわち、

(一) 社宅使用契約の法的性質に關する判斷。

「證人××の證言から認められる原告が本件家屋を含む五十八軒の社宅を本件家屋の近隣に集團的に所有すること、これら社宅は昭和十五年頃原告において日本勸業銀行から低利融資をうけて、從業員のための福利施設の一として建設したもので、專ら從業員に利用せしめるものであること、これが使用料は右建築費を二十年に亘つて分割支拂うものとして算出し、二十年後には勤續從業員のためこれを分讓できるものとなすこと、この分讓を目的とする社宅使用については社宅分讓貸付規定が存すること、社宅使用料は從業員の給料から差し引かれること等の各事實や、同證言から眞正に成立したと認められる甲第四、五號證及び成立に爭のない甲第二號證の各記載を併せ考えると、本件家屋を含む原告會社社宅はその沿革上や使用條件からも明らかに原告會社從業員に限りこれを利用し得べきものであることを認めることができる。かかる場合、特別の意思表示のない限り、右社宅の使用契約は、民法上の賃貸借契約に類似する一種特別の契約で、そこには從業員である身分の喪失を解除條件とする默示の合意が含まれるものと解するを相當とする。もつとも、右證言や被告本人訊問の結果から前示社宅中には原告會社從業員に非ざるものが居住する事實を認めることができるも、右認定を左右することはできない。(以下略。判決は、本件社宅使用契約についてはこれを通常の賃貸借契約として締結した旨の證據がないから、結局それは右に述べた『從業員たる身分の喪失を解除條件とする建物賃貸借契約に類似した一種特別の契約』と推認するのが相當である、としている。)」

(二) 社宅使用契約に對する借家法の規定(特に第六條)の適用の有無に關する判斷。

「・・本件家屋使用契約における右解除條件が被告に不利益な特約として借家法の準用上無效なりや否を考察する。近時、家主借家人間の經濟的立場の懸絶や權利意識の昂揚に伴つて双方の主張が鋭く對立し從前の如く兩者の協調理解による圓滿な解決が期待しがたくなり、同時に建物賃貸借契約は次第に家主に有利に賃借人に不利に締結せられるようになり至つた。かる情勢は賃借人の建物使用權を不安定のものとなし、借家人の個人的利益を保證できないのみでなく、ひいては社會の繁榮を阻害するに至る恐れを生じた。これがため、借家法が制定せられ、私法の根本原理であるいわゆる契約自由の原理を一定の借家契約の領域では直接に制限し社會的に妥當な内容を有する建物賃貸借關係を成立せしめようとするに至つた。たゞ借家法はかゝる社會的目的を有するものではあるが、建物利用關係のすべてに適用せられるものではなく、同法が營利的目的で通常締結される一時使用の目的でない有償の建物利用契約に關してのみ適用あることは云うまでもない。しかるに前示社宅使用契約は營利的目的でもつて締結せられるものでないことは冒頭認定の事實(これは前段(一)に記載されている認定事實のことである――筆者註)から明らかである。又その使用條件については、會社内規が存在して、從業員は會社とかゝる内規によつて一律なる社宅使用契約を締結するものであり、その契約當事者間には、一般の契約における如き相反した經濟的利害の對立關係が稀薄であることも前示證言から認められる。そのうえ、社宅居住者は、一般世人や他の從業員に比べて社宅と云う特別な便宜を供せられているものと認めて差支えなく、しかもこの便宜のために支出する使用料等の負擔とその居住の利益とを比較するときは、右の負擔からうける不利益をとくに重大視するを要しない關係にあることも容易に推論できる。したがつて、前示社宅使用契約の一部をなす解除條件の特約については、借家法第六條の類推適用があり得ないと認めるを相當とする。もつとも、その場合社宅居住者については法的保護が、一般建物賃借人における程度になり至らない場合を生ずる恐れがないわけではないが、さりとて前認定の本件建物使用契約に借家法第六條を類推適用してその解除條件を無效とすることは、同條の適用を不當に擴張するものと言うべきで、寧ろかゝる法的利益は、從業員のための勞働法規等によつて全うせらるべきである。右認定の次第であるから、前示被告の退社により、前記本件家屋使用契約における解除條件は成就せられ、被告から右退社に際しての特別の約定の主張立證のない限り、本件家屋を明渡すべき義務を有するものと云わねばならない。」

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